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映画『爆弾』レビュー。取調室という密室で繰り広げられる圧倒的な心理戦に痺れた。

投稿日:2025年12月16日 更新日:

冴えない中年男の取調べが始まる・・・

【あらすじ】 些細なトラブルで警察に連行された、冴えない中年男・スズキ(通称:田吾作)。 取り調べの最中、彼はふてぶてしい態度でこう予言した。「10時に都内某所で爆発がある」 直後、実際に都内で爆発が発生。 「ここから3度、次は1時間後に爆発する」。 彼は一体何を知っているのか? 単なる愉快犯か、それとも……? 取調室という密室で、警察と「田吾作」の、命を懸けた心理戦が幕を開ける。

映画『爆弾』作品情報

緊迫の取調室シーン。佐藤二朗さんの怪演が光る予告編です。

■タイトル:爆弾
■公開年:2025年
■監督:永井 聡
■原作:呉 勝浩『爆弾』(講談社文庫刊)
■キャスト:
・スズキ(田吾作):佐藤 二朗
・類家:山田 裕貴
・倖田(巡査):伊藤 沙莉
・矢吹(巡査長):坂東 龍汰
・等々力:染谷 将太
・伊勢:寛 一郎
・清宮:渡部 篤郎

映画『爆弾』感想は、日本映画の進化を見た。

まるで『羊たちの沈黙』『セブン』を融合した鈴木容疑者

先日、映画『爆弾』を観てきました。 呉勝浩さんのミステリー小説の映画化作品です。

正直なところ、観る前は「派手な爆破パニック映画かな?」くらいに思っていました。しかし、実際にスクリーンで目撃したものは、そんな単純なものではありませんでした。

そこにあったのは、取調室という密室で繰り広げられる、ヒリつくような心理戦。そして、かつてのハリウッド名作サスペンスを彷彿とさせる、圧倒的な「映画的快感」でした。

50代の映画好きとして、この作品のどこに痺れたのか。ネタバレを避けつつ、個人的な考察を綴ってみたいと思います。

ヴァーバル・キントと重なる、戦慄の「欺き」

個人的に最も戦慄したのは、佐藤二郎演じる犯人・田吾作のキャラクター造形です。 最初はただの無気力で、どこか間の抜けた中年の男に見えます。しかし物語が進むにつれ、その仮面が剥がれ落ちていく。

類家、等々力、伊勢、清宮……。 それぞれ異なる分野のスペシャリストである捜査官たちが、寄ってたかって彼を追い詰めようとします。しかし、田吾作は彼らの専門知識やプライドを逆手に取り、赤子の手をひねるように心理的優位に立っていくのです。

ユージュアル・サスペクツ❝出典元eiga.com

その姿を見て、私はふと『ユージュアル・サスペクツ』でケヴィン・スペイシーが演じたヴァーバル・キントを思い出しました。

ヴァーバル・キントもまた、身体の不自由な弱々しい小悪党を演じ、捜査官の目を欺きながら、実は彼の戦略によるものだったのです。田吾作も同様に、「冴えない中年男」というあまりに無害な外見を隠れ蓑にしています。

「こいつは実は、過去にものすごい地位にいた人間なのではないか?」 最後まで素性は明かされませんが、無気力な態度の裏で警察を手玉に取るその姿は、ヴァーバル・キントの再来を見ているようでした。爆弾そのものより、この男の「演技」こそが何より恐ろしかったのです。

『セブン』の雨を想起させる、冷たい色彩と視点

映像の「質感」にも心を奪われました。 特に印象的だったのは、刑事が捜査でシェアハウスに乗り込んでいくシーンです。

そこに漂う淀んだ空気感、社会の底に溜まった絶望のようなものを目撃するカメラワークに、私はデヴィッド・フィンチャー監督の傑作**『セブン』**を強烈に連想しました。

セブン❝出典元eiga.com

『セブン』といえば、全編を覆う冷たい雨とダークブルーの色彩が印象的ですが、本作にも通底する「湿った冷たさ」があります。特に、シェアハウスのシーンで感じる生理的な嫌悪感は、『セブン』で刑事が「怠惰」の犠牲者(ヴィクター)を発見した時の、あの見てはいけないものを見てしまった感覚と重なりました。

また、田吾作の口調が後半で荒々しく変貌する瞬間も、『セブン』の犯人ジョン・ドゥの狂気が露見する瞬間と重なり、背筋が凍る思いでした。

「演劇」から「漫画」へ。進化する日本映画の演出

私は若い頃、日本映画があまり好きではなく、もっぱらアメリカ映画ばかり観ていました。

当時はうまく言葉にできませんでしたが、今ならその理由が分かります。

昔の日本映画はどこか「演劇」をそのまま撮影したようで、画面全体が平坦に見えてしまっていたのです。

対してアメリカ映画は、登場人物の怒りや悲しみを表現する際、大胆なアップやピントの調整(遠近法)を駆使し、まるで「漫画のコマ割り」のように、今どこを見るべきか、キャラがどう感じているかが直感的に伝わってきました。

しかしここ数十年、日本映画も劇的に変わったと感じます。この映画『爆弾』もそうです。

特に物語中盤、爆弾を仕掛けられたバイクが疾走するシーン。 あのアクションのテンポとカメラワークは見事でした。スピード感あふれるカット割りは、まさに私が求めていた「分かりやすく、かつ興奮できる」映像演出そのものです。

役者の演技力だけでなく、それを切り取るカメラワークもまた、世界基準(あるいは漫画的快感)に達している。そう実感させてくれる見応えのあるシーンでした。

まとめ

90年代の濃密なサスペンス映画が好きだった世代には、間違いなく刺さる一作です。 単なるパニックムービーだと思って見逃すにはあまりに惜しい。

日本映画の進化と、底知れぬ怪演をぜひ劇場で体験してみてください。

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大阪市在住。50歳代のメーカー勤務。 妻と成人した息子・娘の4人家族。 長年「真面目」だけを武器に働いてきましたが、50代で少し立ち止まり、現在は「人生の第2章」を面白がるためにリハビリ中。最近はAI画像生成(浮世絵風)や映画鑑賞、黒板アートなど、クリエイティブな沼にどっぷりハマっています。